税務レポート「もしかしたら対象者かも?財産債務調書とは」
財産債務調書とは
解説:日本経営ウイル税理士法人
代表社員税理士 座間 昭男
「財産及び債務の明細書」が見直され、平成27年度改正により「財産債務調書」となりました。確定申告前に慌てなくても良いように、確認しておきたいと思います。
財産と債務を税務署に提出する「財産債務調書」
所得税の確定申告書を提出しなければならない方で、「その年の各種所得金額の合計額が2千万円を超え、かつその年の12月31日において3億円以上の財産(又は保有有価証券等1億円以上)を有する人」は、その財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額等の必要事項記載した「財産債務調書」を翌年3月15日までに所轄税務署に提出しなければなりません。
いわゆる資産家の方が、その対象者となります。
これは、所得税と相続税の適正な課税のため、端的に言えば、富裕層の財産と債務を捕捉するための制度と考えられます。
財産と債務をリストアップして税務署に提出する。このことについては抵抗がある方も多いのではないでしょうか?
未提出・記載漏れの場合のペナルティ
以前の「財産及び債務の明細書」の場合は未提出や記載の不備でも、罰則は設けられていませんでした。しかし「財産債務調書」については、ペナルティが設けられています。
具体的には、財産債務調書の未提出や提出した場合でも記載もれがあった場合には、その対象財産の所得税や相続税について申告もれ等が生じた場合には、加算税(10%、15%)の額が5%加算されます。
反対に財産債務調書を提出期限内に提出した場合は、記載した財産について所得税や相続税の申告もれが生じたときでも、加算税が5%軽減されます。(財産債務調書を提出しない場合であっても、のちの所得税や相続税の申告でもれがなければ、提出しないことだけについての罰則はありません)
財産債務調書の記載事項と、財産の価額
財産債務調書には、財産の種類、数量、価額、所在及び債務の金額を記載し、その財産の種類ごとの合計額を財産債務調書合計表に記載します(財産債務調書は財産務調書合計表と財産債務調書とで構成されています)。
うち財産の「価額」は、その年12月31日における「時価」又は「見積価額」とされています(国税庁のホームページ「財産債務調書制度のFAQ」にも、詳細が掲載されています)。
例えば、土地の「価額」については、次のように説明がされています。
時価 | 専門家による鑑定評価額 |
見積価額 | ①その年に課された固定資産税の計算の基礎となる固定資産税評価額 ②取得価額を基にその取得後における価額の変動を合理的な方法によって見積もって算出した価額 ③翌年1月から提出期限までに売却した場合はその価格 |
土地については、上記のうち、毎年送られてくる固定資産税の納税通知書にも記載されている「固定資産税評価額」を使うのが適切かと思います。
蛇足ですが、どの方法によって算出するかによって財産の価額が変わるので、方法によっては3億円を下回って提出義務がなくなるというケースもあるかもしれません。
財産を管理し相続対策の基礎資料に
財産債務調書には質問検査権が認められています。提出が義務であり、正しい記載が必要であると考えなければなりません。
そして、今回ご紹介したように、財産債務調書の記載方法にはルールがあります。そのため、ご自身の財産について正確に捕捉する必要があります。
例えば上場株式等であれば市場価額が時価となりますが、非上場株式などは「株価の算定」が必要となってきます。計算・記載に手間がかかりますので、税理士へのご相談が必要になってくるでしょう。
尤も、財産債務調書を作成することによって、ご自身の財産を正確に把握することができます。将来の相続対策のため基礎資料になるとも言えます。
そして、一度提出すると多くの方は、ほぼ毎年提出することになるでしょう。ご自分の財産を管理するためだと、前向きにとらえたいところです。
2020年8月1日
日本経営ウイル税理士法人
代表社員税理士 座間 昭男
本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。
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